「順天堂大学『啓心寮寮祭』」
~今年で第62回目を開催大学と地元が一体となって盛り上げるイベント~
--------------------------------- プロローグ -------------------------------------
大学で開催されるイベントは?と尋ねられたら、多くの人がまず頭に浮かべるのは、よく秋に開催される「学園祭」ではないだろうか。アーティストにとっては「学園祭」に招かれてコンサートを開くのがひとつのステイタスであったし、最近では「ミス●●大学」を選ぶ、いわゆるミスコンが人気を集めているらしく、マスコミもその華やかさを競って報じている。
ところが、順天堂大学のさくらキャンパスでは、いわゆる「学園祭」とは少し趣を異にするイベントが、毎年6月上旬(今年度は5月末)に開催される。『啓心寮寮祭(けいしんりょうりょうさい)』と呼ばれるこのイベントは、順天堂大学の学生ばかりにではなく、地元の印旛村(いんばむら)や酒々井町(しすいまち)の人々からも愛されながら、今年で62回を数えることになった。
「なぜ、秋ではなくて6月上旬に開催するのだろう?」という疑問や『寮祭』というノスタルジックな響きにも誘われ、さくらキャンパスを訪問した。そして、学生部学寮課の根岸隆介氏、今年の啓心寮寮祭で実行委員長を務められた川中理氏、生涯スポーツ国際比較研究室在籍でイベント学会会員でもある川部夕里氏の3名に、『啓心寮寮祭』について取材をさせていただいた。
------------------------------------------------------------------------------------
『啓心寮寮祭』という名称は、順天堂大学さくらキャンパスの中にある学生寮「啓心寮」に由来している。順天堂大学に入学した学生は、1年生の間は全員がこの啓心寮に入寮し、集団生活を送ることが規則になっている。今どきの大学生が、学生寮で集団生活を送るというのも珍しいが、たとえ新入生の自宅がさくらキャンパスの隣にあったとしても、啓心寮に入寮しなければならないというのだから驚いてしまった。
◆なぜ、6月上旬に開催するのか? その理由は、まず「仲間づくり」
6月上旬(今年度は5月末)に開催される寮祭だというので、取材前までは先輩達が新入生の入学を祝う新入生歓迎祭なのだろうと想像していた。しかし、また驚いたことに、啓心寮寮祭は新入生歓迎祭ではなく、あくまでも入学早々の新入生が主体となって、企画や準備をし、開催させているのだそうだ。
今年の新入生は485名であったが、入寮するとすぐに寮祭の準備が始められたという。「入学する前までは見知らぬ同士の新入生なのだから、意見の衝突とかトラブルもあったのではないか?」と尋ねてみると、すぐに「そういうこともあるでしょうが、たとえトラブルがあったとしても、啓心寮寮祭が終わってみるとチームワークが出来上がっていて、ほとんどの新入生がお互いの名前を覚えてしまっています」という答えが返ってきた。
つまり、啓心寮寮祭には「どうせこれから1年間一緒に暮らすのならば、そして、どうせ4年間大学生活を共にするのならば、早めに仲間になってしまおう」というねらいがあり、入学早々の6月上旬に開催される理由も、どうやらここにあるらしい。入学した途端に啓心寮寮祭の企画や準備に追われ、終わった時には大きなイベントを成し遂げた達成感と充実感を味わい、さらには新たな仲間を得ることにもなる。順天堂大学の新入生は、他の多くの大学が頭を抱えている新入生の「五月病」とか「無気力症候群」とかいう問題とは、全く無縁なのではないだろうか。
◆地元をあげて『啓心寮寮祭』を応援
啓心寮寮祭は3日間にわたって開催されるが、その中の呼びもののひとつに裸まつりがある。裸まつりとは、神輿仕立ての酒樽を学生達が担ぎ、キャンパスを飛び出して、地元の街を練り歩くというものだ。神輿が街を練り歩くなどと聞くと、「音がうるさい」とか「ゴミが出て汚くなる」とか「交通渋滞になる」などという住民からの反対があるのではないだろうかと、ついつい心配してしまう。ところが話を聞いてみると、祭りの当日は地元の人達がこの裸まつりを沿道で待ち受けていて、担いでいる学生達に威勢をつけるための水をかけるのが吉例になっているそうだ。神輿の担ぎ手に水をかけるという光景は、多くの伝統的な祭りでも見受けられるが、裸まつりもそれらの祭りと同様に、地元の人々から愛され、『啓心寮寮祭』を学生達と一緒になって盛り上げようという意気込みが伝わってくる。「酒樽を用意するのはなかなか難しいと思いますが、どうやって手に入れるのですか?」と尋ねると、我が意を得たりとばかりに「地元の酒造メーカーが提供してくださいます」とのことだった。

地元の応援は裸まつりだけに限らない。開催告知のポスターは駅や商店街の店先のあちこちに貼られるし、パンフレットへの広告協賛や協賛金などの協力も毎年続けられている。そして何よりも、裸まつりが街中を練り歩くために、警察署をはじめ安全協会や商店街の方々までもが、交通整理や観客整理を率先して取り仕切ってくれるのだそうだ。
もはや、啓心寮寮祭は順天堂大学のお祭りというだけでなく、印旛村と酒々井町にとってのお祭りでもある、といえるだろう。
◆『啓心寮寮祭』が成功している理由
イベントの成功や失敗を判断するには、様々な基準と多角的な視点からの分析が必要となるだろう。では、啓心寮寮祭はどうなのだろうか? これまでのお話では、全寮制という、現代ではネガティブに考えられがちな一面を、「全寮制だからこそ可能なイベント」にしてポジティブに昇華させている。「新入生が主体」というポリシーが奏功していることも、62回も継続されているという事実が証明している。さらに、イベントを開催するうえでの使命のひとつである「地元への貢献」という点でも、地元の人たちが裸まつりをはじめとして、全面的な協力を惜しんでいないことからも、十分にその使命は果たしている……などから判断すれば、間違いなく成功している。
◇成功の理由 その1:リスクマネジメントを実践
イベントを成功させるためには、まずはその種のイベントを企画したり、運営したりしたことのある経験者が必要になるだろう。イベントの主催者や出展者のほとんどが、企画や運営などの業務を委託する事業者を選定する際に、「これまでの実績」を基準のひとつにしているのもこのためだ。ならば啓心寮寮祭でも、1年生が主体であるよりは、経験のある2年生が、企画・準備・実施などを進めたほうが効率はよいはずだ。「1年生を1日でも早く大学に慣れさせ、多くの友人をつくり、有意義な学生生活を送ってほしい。」というねらいもわかるが、イベントには事故やトラブルなどをはじめとするリスクも多い。
それでもなぜ、啓心寮寮祭では経験者である2年生ではなく、未経験な1年生をあえて主体にしているのだろうか?という疑問は残る。
率直にこの疑問をぶつけてみると、「大学側も先輩達もその点はきちんと心得ています。実は啓心寮には新入生だけでなく、2年生の中から寮長や室長に選任された40人弱の先輩もいて、日常生活だけでなく啓心寮寮祭でも、何らかの問題などが起こりそうになったときには、この先輩達が適切なアドバイスなどをするようになっています。」という答えだった。つまり、事前にリスク対策をしたうえで、「新入生が主体」となることのデメリットよりも、「新入生が主体」となることで得られるメリットを選択した、ということなのだろう。確かに、新入生が主体になることによって、自らが自尊心や自負心を育み、協調性の重要性も学ぶというメリットは、これから4年間を過ごす大学生活では、その意義は大きいはずだ。
リスクという側面から言えば、啓心寮寮祭には他にもたくさんのリスクが想定される。初日に開催された「笑運動会」というスポーツ競技会や3日目の裸まつりだけでなく、焼きそばやたこ焼きなどの模擬店でさえも、ケガ人や病人の発生は危惧される。事実、一昨年ははしかが流行していたし、今年も新型インフルエンザの感染拡大などの問題があった。しかし、これらのリスクへの対応は、順天堂大学の学生にとっては最も得意な分野だったのかもしれない。なぜなら、さくらキャンパスはスポーツ健康科学部と医学部の学生ばかりなのだから、いつもは教室で学んでいることを、啓心寮寮祭という場面で実践できるはずだからだ。恐らく、寮長や室長のアドバイスを受けながら、救護体制をはじめ、伝染病による開催の延期や中止の基準などについても、あらかじめ慎重に協議されたに違いない。
3日目の最終日には打ち上げ花火とファイヤーストームがある。夜空に高く舞い上がる花火や炎は、いやがうえにも啓心寮寮祭のフィナーレを盛り上げる。
花火の扱いはもちろんプロに任せるが、届出などの所定の手続きをはじめ、地元への事前の説明も怠らない。なぜなら、たとえ啓心寮寮祭がすでに恒例となっていて、地元の方々が楽しみにしていたとしても、夜遅くまでの騒音や煙や炎が出ることについては、細心の注意を払わなければならないことを知っているからだ。換言すれば、このような配慮こそが地元から愛され、62回という回数を重ねられた理由だろう。まさに62回という歴史の中で、リスクマネジメントの手法が磨かれ続けてきていることになる。
◇成功の理由 その2:赤字は出さない
イベント開催後には、「所期の目的を達成したかどうか」という評価をするとともに、特に興行性が高いイベントならば「利益が出たか」ということも重要になるだろう。啓心寮寮祭は利益を出すことを必要とはしていないだろうが、少々失礼かなと思いながらも、模擬店について「赤字が出たらどうするのか?」と尋ねてみた。すると、「赤字は出しません」とのことだった。あまりにも自信のある表情で答えていただいたので、思わず「どうやって?」と質問を続けたら、次のように説明をしてくれた。
模擬店の売上予想は当日の天候などで大きく変動する。そして、“この日は雨だったからお客さんも少なかったが、来週は頑張ろう”などと、毎日営業している飲食店と違って次のチャンスに賭けることもできない。そこで考え出されたのが「食券システム」だ。このシステムをひとことで説明すると「模擬店で使える食券をあらかじめ地元の人達や先輩達などに買ってもらい、模擬店で販売する料理の食材や飲料などは、食券の販売金額に見合った数量しか用意しない」 -ということだ。使わなかった食券は換金しないのだろうから、このシステムならば、「料理や飲料が余ってしまって、赤字が出た」などというリスクの発生は限りなくゼロに近い。また、模擬店で人気のある「たこ焼き」とか「焼きそば」などは出店希望が殺到するため、そのような場合には、模擬店全体のメニューなどのバランスにも配慮しながら、実行委員会が調整するそうだ。「恐るべし、学生ビジネス」である。
◇成功の理由 その3:アウトソーシングの有効活用
イベントに必要となる備品は多数ある。啓心寮寮祭でも観客用のイスやテーブルに始まり、模擬店用の屋台、音響や照明の機器など、数え上げたら相当な数量になるはずだ。啓心寮寮祭では、これらの備品はレンタル会社からいつも調達しているそうだ。なぜ、レンタル会社からなのか?と、尋ねると「イスやテーブルだけなら、自分達だけでも並べることはできるだろうが、屋台の設置や音響・照明機器などを効果的に使いこなすには、どうしてもプロの手助けが必要となる。だから、レンタル会社には、これらの機器のオペレーションを含めてお願いしている」とのことだった。
ちなみに、「啓心寮寮祭が終わるとたくさんのゴミが出ると思いますが、処理が大変でしょう?」と少し意地悪な質問もしてみたら、「模擬店では生ゴミや廃油なども出ますので、啓心寮寮祭では、大学が日常のゴミ処理を委託している専門の業者さんにお願いしています。」とのことだった。何が何でも自分達ですべて行うというのではなく、イベントを効率的に運営するために、アウトソーシングという手法も有効活用している。
-------------------------------- エピローグ --------------------------------------
『啓心寮寮祭』の今年のタイトルは「笑輝祭人(えきさいと)~燃えろ!すべてはこの一瞬に~」であった。このタイトルからしても、ユニークだが、さらに日程表を見ると、初日は17:30から開会式が行われ、続いて18:30からは「笑運動会」というスポーツ(?)競技会が開催されている。「えっ、夜に運動会?」と、まず驚き、続いて2日目を見ると、模擬店に「てきや」とネーミングされていて、そのセンスに思わずニヤッとさせられた。日程表を見ただけでも、『啓心寮寮祭』の楽しさが伝わってきて、次から次へと尋ねたいことがわき出した。
正直に言うと、取材する前には、頭のどこかで「どうせ大学生のイベントだろう」くらいに考えていたのかもしれない。しかし取材中は、62回という『啓心寮寮祭』の歴史の中で継承されてきた順天堂大学の学生の方々のパワーのようなものに圧倒されてしまい、ただただ感心するばかりだった。そして、取材を終えて、改めて今、『啓心寮寮祭』を継続させてきたパワーの源は何だろうかと考えたときに、ふと浮かんだのは「学生自らも楽しんでいる」ということだった。そういえば、不謹慎なのかもしれないが、そもそもイベントを成功させるための秘訣は、お客様だけではなく、主催者を含めたそのイベントに携わる人達すべてが楽しめる、ということではないだろうか。今回はそんなことを考えさせてくれた取材であり、『啓心寮寮祭』という素晴らしいイベントとの出会いであった。来年の啓心寮寮祭がどのような企画になるのか、今から楽しみでならない。
------------------------------------------------------------------------------------
【第62回順天堂大学啓心寮 寮祭】
■ 平成21年度タイトル:笑輝祭人(えきさいと)~燃えろ!すべてはこの一瞬に~
■ 会期:平成21年5月29日(金)~5月31日(日)
■ 主なプログラム
| 5月29日 | ◇開会式 ◇笑運動会 |
| 5月30日 | ◇Tシャツコンテスト チームごとに揃いのTシャツでパフォーマンスを披露する。 ◇てきや(模擬店) ◇DISCO |
| 5月31日 | ◇裸まつり ◇花火・ファイヤーストーム / 閉会式 |
![]() |
![]() |
![]() |





