5,000名を招待して映画試写会をスタジアムで開催
~会場に海外から主演俳優を招聘し、オートバイが走行する映画のワンシーンを再現~
『イーカルス』はオートバイをこよなく愛する主人公が登場するアメリカのアクション映画だが、主演のビル・スミスはこれまで主にビジネス界で活躍する企業家や、辣腕弁護士などの役柄で、知性派俳優として高い評価を得ていた。しかし、『イーカルス』では、彼がオートバイでのスタントやアクションに初挑戦し、さらにはこの作品で著名な映画賞の主演男優賞にもノミネートされたため、前評判は否が応でも高まっていた。そこで、日本での映画配給会社であるイーストワールドジャパン社では、この好機に乗じようと、『イーカルス』の試写会も趣向を凝らした大掛かりな演出で開催することにした。
試写会の企画・運営の担当になった新橋がまず初めに考えたのは、主演のビル・スミスをはじめ、監督、共演女優などをアメリカから招くプレミアム試写会だったが、日本からもバイク好きで有名な大物俳優やハリウッド映画に出演経験のある俳優などを招待することも忘れなかった。
次に新橋が考えたのは、試写会のオープニングで主役のビル・スミスが劇中車の『ソードⅢ』と名づけられたオートバイに乗って登場し、映画のワンシーンを再現するという演出だった。主演俳優はタキシードなどのフォーマルな衣装で挨拶だけするのがいつもの試写会であったが、新橋が敢えて映画のワンシーンの再現にこだわったのは、次のようなエピソードを記憶していたからだった。
実は『ソードⅢ』を製造したのは、オートバイのカスタムメーカーとして海外でも有名なSAKUWA AUTOであった。撮影には、SAKUWA AUTOのスタッフ数名が『ソードⅢ』のメカニックとしてメンテナンスのために参加していた。撮影の途中で監督やビル・スミスから『ソードⅢ』の改造アイデアが出されたとき、彼らはすばやくそのアイデアを実現し、監督たちを「エクセレント!」と唸らせたのだ。
事実、ビル・スミスは映画が完成したときの映画専門誌のインタビューで
「私の俳優人生をチェンジさせてくれたこの映画は、SAKUWA AUTOが製造してくれた『ソードⅢ』と、SAKUWA AUTOのスタッフの協力がなければ完成できなかっただろう。SAKUWA AUTOのスタッフに心から感謝したい。もし再び『ソードⅢ』と彼らと一緒に仕事ができる機会があるならば、私にとって最高の喜びだ。」
と、熱く語った。このとき、新橋は『イーカルス PART2』の製作を予感していた。
話題性など宣伝効果を考え、試写会会場をスタジアムにし、一般客5,000名をメインで招待することが決まった。新橋はビル・スミスがスモークとともに『ソードⅢ』に乗って現れ、客席の間を駆け抜けるというサプライズを考えたが、こうした仕掛けや演出の相談にのってくれたのは企画会社サイドKの横田だった。この2人を中心に、関係者は何度も打ち合せを重ねていた。
新橋 「いきなりオートバイが現れて、乗ってるのがビルだったら驚くと思うんだ。」
横田 「おもしろいアイデアですが、ステージプランからするとステージからオートバイを出すのは危険ですよ・・・・・・。そうだ! 代わりに飛ばしませんか?」
新橋 「オイオイ、飛ばすほうがもっと危険じゃないか?」
横田によると、明和技術舞台という特殊技術をもっている会社が、まるで舞台から浮かび上がったように人や物を動かす装置を開発したという。これを使うと、観客席からはまるで舞台の上を飛んでいるように見えるというのだ。
新橋 「良いねぇ。ビルが『ソードⅢ』にまたがって空中を舞うのは『イーカルス』のワンシーンにピッタリだ。でも特殊技術だから使用料が高いとなぁ・・・・・・。」
横田 「明和技術舞台さんもこの装置のデモンストレーションをしたいと言っていましたから、タイアップをお願いしてみますよ。タイアップといえば、特別プレゼント500個の件ですが、やっとOKがもらえました。」
この試写会にもう1つサプライズを考えていた。試写会の当日に持参してもらう招待状にあらかじめ抽選番号を印刷しておいて、500名にSAKUWA AUTOが製造した『ソードⅢ』の特製ミニチュアを、抽選でプレゼントする企画を立てていたのだ。口コミ効果を狙ったプレゼント企画だが、著作権を持つ映画会社やSAKUWA AUTOなどと交渉して“記念品として無料のプレゼントに限定するなら”とようやく許可が得られたという。
新橋 「それじゃ横田さん、明和技術舞台さんとは特殊技術の安全性も十分に検証してください。ビルが『ソードⅢ』から落ちたりしたら大変ですから。それに、ミニチュアを製造するための契約書も用意してください。映画会社やSAKUWA AUTOさんから後で『約束が違う』なんてクレームが来ないようにね。それから、試写会招待への応募はがきだけど、名前や住所などの個人情報が書かれているから、管理には十分に注意して・・・・・・。」
その後も新橋からは様々なことが関係者に指示され、この日の打合せが終了したのは深夜だった。
試写会は大成功で、『イーカルス』の興行収益は、その年の作品の中でダントツ1位だった。試写会でプレゼントされたミニチュアもインターネットで話題になり、「一般販売はしないのか!?」という問い合わせが殺到した。その対応にうれしい悲鳴を上げることにもなったが、新橋や横田をはじめとする関係者をもっとも歓喜させたのは、アメリカの映画製作会社から「来年から『イーカルス PART2』の製作に着手し、3年後の公開を目指す。」という連絡が入ったことだった。
イラスト:鈴木純子


