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栗原 毅
電通MS事業局スペースブランディング室プロジェクトディレクター
マーケティング局、メディア開発局を経て1989年~1994年電通ドイツ出向。商業放送衛星計画作成に参加。
1998年~2001年ハノーバー万博MSOGmbH出向。同万博事業計画作成に参加。
2001年イベントスペース開発局。来場者の心理変化を指標としたイベント効果測定手法の開発に参加、現在も同作業を継続中。
共著「デジタル集客術」同友館 「イベント学のすすめ」ぎょうせい
企業のコミュニケーション手段の中でもっとも身近なものはテレビの広告(CF)でしょう。日本はアメリカとともに、広告が放送を支えているというやや特殊な国です(世界のほかの国では事情はかなり異なります)。CFは「限度ぎりぎりの頻繁さで」テレビ画面に現れては家庭に商品情報を伝え、放送局と広告代理店を潤しています。
夕食どきに「じゃまな」CFについてあれこれ批評を加えながら食事をした経験は誰でもお持ちでしょう。 「このCFはおもしろい」「こんなタレントを使って、企業イメージが良くなると思っているのか」などなど、ああでもないこうでもないとCFに意見するのはなかなか楽しいものです。
ところで、こうした我々の意見や批判・感想はCFの企画制作にどんなかたちで反映されているのでしょうか。
テレビCF調査 二つのやりかた
以前のコラムで申し上げましたが、テレビの広告効果は基本的には、どれだけの世帯が見てくれたか、という「量の世界」です。ですからCFの内容がどう受け止められているかという「質の世界」は、視聴率に比べると「二の次」感があることは事実です。また広大なCFの世界をどう網羅するかなどの手法上の問題点もあり、表現については視聴率調査ほどには精緻に調査されてはいません。
CFの表現内容についての調査は2種類あります。
1 訪問アンケート調査
これが主流調査で、視聴率測定とあわせて定期的に行われています。調査員が各家庭を訪れて(郵送の場合もある)、CFを再現したストーリーボード(数枚のカラー写真)を見せて、このCFを見たことがあるかどうか、登場するタレントや内容の好き嫌い、記憶にある演出要素、商品への気持ちの変化などを尋ねるもの。
2 集合調査
こちらはクリエイティブテストといわれているものです。 謝礼を払って試写室のような部屋に集まってもらい(一度に10人~20人くらい)、そこでいろいろなCFを見せ、感想を尋ねる調査です。
1の調査はCF一般の効果、商品情報の伝達度などを調べる網羅的調査。2はある特定の商品について広告表現との関係を詳しく分析したいときに使われます。
これらの調査方法は、テレビ広告の発達とともにいろいろな試行錯誤を経て、網羅性、説得性と継続性などのフィルターをくぐって、最も実際的な方法が残っているものです。
ところで、こうしたCFの効果測定の方法は、展示会の効果を測るという作業に応用できるでしょうか。
「現場性」の欠如
残念ながら、上記ふたつのやり方は、刺激と反応という観点からコミュニケーション要素と心理変化の相互関係を摘出しようとしているものの目から見ると、どちらも不備な点が多いと言わざるをえません。
論点はいろいろあるのですが、その最大のものは、現場で調査していないということです。
調査員からCFのあらましが紙に書かれたものを見せられても、その紙は茶の間で家族と談笑しながら見るCFとは違います。集合調査で、見ず知らずの人々と共に(謝礼までもらって!)試写室の椅子に座って眺めるCFと、現実の食卓で見るCFとはココロへの映り方がまるで異なるでしょう。
一言で言うと、これらの調査で得られる情報は、本物の状況下での態度や意見ではない。CFの調査はCFが提供・享受される現場で、そのときの受け手の心理状態下で行わなければ正確なものとは言いがたい。正しい反応は刺激の現場でなければ得られないのです。
IN VITROと IN VIVO
生物の実験用語で 「IN VITRO」と「IN VIVO」 というものがあります。たとえば新薬の実験ではIN VITROは 試験管のなかで効果を確かめる実験。IN VIVO は 実際の生物個体のなかで副作用や効率的使用量を確かめながら行う「本当の状況に近い」実験です。
先に挙げたCF調査は「IN VITRO」ということができます。一方私たちは、イベントの効果測定は「IN VIVO」でなければならないと考えています。
来場者は平均14分間のブース滞在の中でさまざまな展示意匠に触れて、いろいろな心象を作り出します。それらは「認識」ではなく「感覚」に近いもの。瞬く間に変化・風化してゆくココロの万華鏡です注。
ある展示要素とココロの変化がどう結びついているのか、他の要素との関係はどうか、・・・これらの関係性を総合的に解き明かすためには 現場を離れてはいけない、手法上可能なぎりぎりのところで 「ヒトのココロが変わる場所」に近づいているべきだ、と思っています。そうでないと、刻々と切り結びあう、ヒトの心と展示要素との実相が捉えられない。
だから私たちはWEBを使った調査をあまり行いません。WEB調査は「後で・別の場所で」行うもの。日が経った記憶にはナマモノがもつ新鮮さが失われているのです。
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・・・と偉そうに書いてきましたが、私たちの調査も所詮データから推測できる近似値にすぎません。心の中で起こることをあれこれ推し測るだけです。
来場者のココロを本当に知るためには 「ある展示に接触した瞬間の脳内・各野別電流の変化を心象像に転換して記録する」 などのSF的手法の実現を待たねばなりません。
ブースの出口ゲートにレントゲン装置のようなものが置いてあり、そこを通ると一瞬でその人の心が細大漏らさず記録される・・・・・イベント効果調査屋の理想かもしれませんが、あまりぞっとしない光景ですね。
注:実際に、来場者は(残念ながら!)展示会記憶をとても早く忘れてしまいます。来場の翌日には展示要素や企業名などの多くの情報が混同・希薄化しています。 しかし、「情報」に比べて「印象」はずいぶん長く残るようです。理解した情報ではなく、出会ったことの印象が、展示会を他に類を見ない一期一会の場にしているのだ・・・そんな気がしています。この点については改めてお話ししたいと考えています。