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【第3話】がんばれ「閑散」イベント

栗原 毅

電通MS事業局スペースブランディング室プロジェクトディレクター
マーケティング局、メディア開発局を経て1989年~1994年電通ドイツ出向。商業放送衛星計画作成に参加。
1998年~2001年ハノーバー万博MSOGmbH出向。同万博事業計画作成に参加。
2001年イベントスペース開発局。来場者の心理変化を指標としたイベント効果測定手法の開発に参加、現在も同作業を継続中。

共著「デジタル集客術」同友館 「イベント学のすすめ」ぎょうせい

【 展示会の最新事情 】

ひとまず大事な「ワイガヤ感」
イベントの会場に足を踏み入れると、まず伝わってくるのが、会場の活気・もりあがり。第一印象ですね。
「客はまず会場のにおいをかぐのだ。だから、我々の仕事は、良いにおいを提供することだ。」ある先輩のことばです。

においとは言い得て妙。私も自分の気持ちをふりかえってみると、うなずけます。一歩会場に入るとき、全体の雰囲気を「嗅いで」みて、そのにおいが活気に満ちているほど、期待が湧いてくるものです。
ヒトが群れていて、なにごとかが賑やかに行われていると、ちょっと寄っていってみようかなという気持ちがもりあがる。逆に閑散としていると、入ろうという気がおきてこない。

私たちのデータでも来場者が「活気」とか「ワイガヤ感」を一瞬で感じ取っているという様子が見えています。頭で理解するというのではなく、一瞬に肌感覚として感じ取ります。雰囲気が低調に感じればさっさときびすを返してしまう。
この一瞬のにおいが勝負なのでしょう。そこにステージや音響、コンパニオンなどの「盛り上がり」意匠たちの出番があるわけです。


ワイガヤの対極にあるもの:スローイベントの可能性
かくして展示意匠では、活気や勢いを盛り立てる知恵が重要視されることになります。「やっぱり目立たなきゃあ」という気持ちは、展示会関係者の暗黙の前提になっているかもしれません。

しかし、来場者の心の陰影は、一筋縄ではゆかないようです。
注目していただきたいデータがあります。

ある展示会の調査を実施しました。調査実施日に会場に足を運び、あれ?今までと違っている、と思ったのは、まさに「閑散とした」雰囲気が満ちていたことでした。
「今年は客が入っていないねえ」
「去年は盛況だったのにねえ」
会場のそこかしこでこんな会話が聞かれ、「もりあがっていない展示会」としての印象が定着してゆきました。
私たちの調査対象は、会場全体ではなく個々の出展ブースですから、直接関係はないものの、全体のムードがヒトの気持ちにどう影響するか心配していました。

ところが、個々のブースのデータは意外なものでした。低調だったという全体の印象とはうらはらに、個別ブースの結果は前年よりもはっきりと改善されているのです。
下の表をご覧ください:

<対象ブース全体平均> 前々回 前回 今回
①ブース内行動の多彩さ 基準値(100) 107 121
②平均ブース内滞在時間 14.6分 15.9分 20.2分
③目的達成度 61.5% 68.5% 74.3%
④商品への自己適合度
  平均上昇率
47.3% 54.4% 62.4%


①の「行動の多彩さ」とは、ブース内での行動の総量を示す指標です。これが増えたということは、ブースのなかで展示やモノにより多く触れたということ。結果として②ブース内に留まる時間が増えた。③来場目的達成度も上昇、④商品と自分の距離感も近くなった ― 良いことばかりです。

展示意匠や来場者の目的意識が突然大きく変化していない以上、この結果をもたらした原因は、会場が「閑散としていたこと」にあるのではないかと推測できるのです。
すいているからゆっくり見物できる。専門的な説明も聞けるし、手にとってじっくり眺められる。時間をかけて自分への刻み込みを行うことができる。その結果、来場者はより多くの情報と良い印象を持って帰ることができた、と考えています。

すし詰めよりも閑散のほうがヒトの心に良い変化をもたらすことがある、というこのデータは「イベントはお祭りだ、お祭りはワイガヤだ」というだけではない、モノに触れるということの奥深さを示唆していると思うのです。

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ヒトがモノに出会うということ:触り・話し・自分とのかかわりを確かにする過程には、ワイガヤ感だけではない、ゆっくりとした営みも必要なのでしょう。

イベントの本質は「ふれあい」(ちょっと気恥ずかしいコトバですね)などといわれてはいますが、展示会では、なかなかこのコトバにふさわしい、優しい時空間を創造できないのが現実です。
閑散イベントの逆手をとって「森を散策して花を愛でるような」経験を来場者に楽しんでもらう、そんなスロー・イベントは作れないものでしょうか。