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交流文化産業を読む ~ポスト万博のイベント~
宮木宗治
調査・研究本部本部長
イベント学会 理事
●イベントの両面が見えた2005年
昨年の1月、日本イベント産業振興協会(JACE)が創立15周年事業として主催した「日本イベント大賞」の表彰式がありました。大賞に選ばれた「えひめ町並博2004」は、生活の場である町並みや施設をそのまま生かす“パビリオンのない博覧会”で、市民が主体となって埋もれていた風物・芸能などの観光資源の掘り起こしに取り組み、80を超える交流プログラムを立ち上げたことなどが高く評価されました。
一方、愛・地球博は、中部国際空港、リニアモーターカー、東海環状自動車道など大がかりなインフラ整備を伴って開催され、入場者目標をはるかに超える2200万人を集めました。パビリオンでの体験に近いものは東京ディズニーリゾートやユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどでも提供されている今、どれだけの人が万博会場へ足を運ぶだろうかと、大方の予想はやや悲観的でした。ところが蓋を開けてみると、あれだけの人が来ました。これをどう読むかさまざまな意見がありますが、私が一番感じたのは「時間感覚」で、35年ぶりという時間軸を読み違えた人が多かったのだと思います。今の子供たちにとって、大阪万博が開催された35年前はまったく未体験の時代。大人たちには懐かしさも動機になって、新たな大衆行動が生まれたのではないでしょうか。
20年ほど前に「分衆の時代」というキーワードが流行しました。人々の興味や価値観がどんどん細分化し「大衆」が分化していくというもので、今でいう「オタク」の先駆けです。その頃からマーケティングでも、対象をどんどんクラスター化して捉えようとする手法が主流になり、今日まで多様化が進んでいると考えられていました。今回はまさに「想定外」だったのですが、昨秋の選挙結果なども考え併せると、大衆行動をもう一度検証し直す時期なのかもしれません。もともと乗り遅れまいとする国民性なのか、メディアに煽られると一方向へ走り出すような傾向に危なっかしさを感じる反面、好奇心の強さが健在だったことに安心したのも正直なところです。
水戸で開催された「HIBINO EXPO 2005 日比野克彦の一人万博」(8月 6日~ 9月19日)も注目に値します。一人と万博のコントラストがおもしろく、一般来場者が制作過程に参加、協力するワークショップが充実した展覧会でした。
05年は同じ場所、同じ空気を共有する体験の価値を改めて認識すると同時に、さまざまな両面を見せてもらったと感じています。
●ソフト力が問われる時代へ
東京オリンピック以降、社会資本整備と手を携えて推進されてきた大規模イベントは、すでにその役割を終えました。愛・地球博は20世紀型スタイルで開催された最後の博覧会として記憶されることになると思います。全国いたるところにホールやスタジアムが建設されインフラは十分に整いました。これから問われるのは、ソフトを充実させ稼働率を上げること。観光と両輪となるイベントでいかに振興を図っていくか、都市や地域間で知恵を競う時代に入るのです。イベントの主流は小型化に向かい、ビジネスとしては厳しくなるかもしれません。いずれにしても、横浜開港150周年(09年)、平城遷都1300年(10年)、一連の大阪再生プロジェクトの集大成など、開催が予定されている大規模イベントは数年先。それまでは新たな時代への仕込みの期間です。
一方、景気の回復に伴い、企業の販促イベントなどは拡大が期待できます。ケータイとのリンクなどでイベントのメディア価値を高める工夫をすれば、マス広告からダイレクトコミュニケーションへのシフトが進むと思われます。メディアが多様化するなか、イベントの持つライブ性がますます大きな魅力となるのは間違いありません。
●成功のカギは「志」と「成長」
成功しているイベントを見ると、いくつか共通点があります。はじめに「志」があり、「成長」を続けることです。まず“言い出しっぺ”がいて、意気投合する人がいて、しだいに仲間の輪が広がり一回開催しますが、最初は採算もとれず厳しい運営を迫られます。二回、三回と継続するうちに少しずつ大きくなり、マスメディアで取り上げられるとさらに動員力が高まり、スポンサーも集まってきます。軌道に乗っても安心はできません。10回近くなるとマンネリを避けるため新たな飛躍が課題となります。このように、イベントは生き物なのです。
イベントの成長につれ担い手も年をとりますから、次代の育成も大切です。そのとき志をいかに持続させるかがカギで、新たな志で種を蒔き育て定着させるサイクルをつくらなくてなりません。志ある若者には、「前にもやったな」と思っても潰さず応援してくことです。イベント効果が一過性で終わってしまうのは、こうした視点が欠けているからです。たえず成長を続けることで、地域経済の活性化を目指してこそほんとうの成功につながります。
イベントはとかく首都圏や大都市に偏って開催されがちですが、地方のほうが恵まれている点も多々あって、私が最近痛切に感じているのが情報をめぐる状況です。首都圏はあまりにもイベントが多く、自分が住む地域の情報すら伝わってきません。ところが地方では、凧揚げ大会でも魚の掴み取り大会でもローカルニュースで紹介されます。たとえば国際会議の参加者が翌朝新聞を広げたとき、首都圏ではほとんど埋もれてしまいますが、地方紙ならトップ扱いも可能で、参加者・ゲストにメディアの注目度や県民・市民の歓迎を示すことができます。「熱心に誘致したわりには、何も載っていないな」という印象に比べ、その隔たりは決して小さくありません。
国際的なイベントは全世界に開催地の名を発信する絶好の機会であると同時に、地域住民の意識を大きく変えていく相互作用もあります。これからのイベントは、地方にこそ勝機があるかもしれないのです。
●イベント界にもスピルバーグを
JACEでは、第三者機関としてプロデューサーの紹介やセミナー・研究会の主催などを行っています。日本イベント大賞は来年第2回公募が決まりました。すぐれたイベント活動にスポットを当て、イベントのもつ社会的役割や機能を敷衍することで人材育成にもつながりますから、今後大切に育てていきたいと考えています。たとえば映画産業では、「スピルバーグのようになりたい」と憧れの職業や人物が具体的ですが、イベントプロデュースという仕事は見えにくく、一般の社会ではほとんど認知されていません。将来、日本イベント大賞が、イベントプロデューサーのステータス向上に役立てばいいと願っています。人材育成に関していえば、イベントの資格検定の試験も実施しています。イベント立案から施工・実施までを総合的に管理できる人材の育成を目的とする「イベント業務管理者試験」と、イベントについての体系的な基礎知識を持つ人材の養成を目的とする「イベント検定」です。
また、イベントの調査研究もJACEの大切な役割です。毎年刊行している「国内イベント市場規模推計結果報告書」は、次年度の事業計画立案の際などに活用されていますが、イベントをトータルに見ることができる唯一の機関として、今後はイベントによる波及効果の測定や、地域振興と結びつけて相互の比較ができるような評価基準づくりなどが課題になると思っています。国のイベント政策がバラバラにならないためにも大切なのですが、なかなか予算がつきません。
昨年、何らかのイベントに参加した2000人を対象に、どれぐらいのお金を使ったか全国調査しました。アテネオリンピックで液晶やプラズマなどの薄型テレビが一気に普及したように、イベントにはさまざまな消費促進機能があります。イベントという横串を通すことによって、幅広い産業分野にわたる消費の全貌を把握する試みは、今までにない新しいアプローチです。その結果、会議・展示会は交通費、スポーツイベントは飲料代の比率が高くなるなどカテゴリーごとに異なるものの、準備3割、交通費3割、会場3割、宿泊費1割という大まかな法則が浮かび上がってきました。準備にはビデオ、デジカメ、カタログ、書籍や衣服などの購入などが含まれています。このようにトータルで見てはじめて、イベントの持つ産業活性化力が見えてくると考えています。
豊かな社会での消費行動は、手に取るものより足を向けるものへ変わっていくとされています。旅行でもザルツブルグ音楽祭やホノルルマラソンに参加したいなど、目的が明確なものが増えているように、今後ますますイベントによる波及効果は大きくなると考えられます。
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(注)「えひめ町並博2004」は2004年4月29日~10月31日、愛媛県・南予(なんよ)地域の観光ブランド形成を目指して開催された観光博覧会。住民による交流プログラムは80を超え、174万人がイベントに参加した。プロデューサーは宮本倫明氏、実行委員会は現在も継承事業を展開中