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環境イベントが持つ可能性

 暑い夏を少しでも涼しくしようとした江戸時代の庶民の知恵、「打ち水」が現代の都市社会の中で蘇った。一昨年、一人の男がボソッとつぶやいた。「打ち水を、100万人でやったらどうなるんでしょうね」「うっ。それ、おもしろい!!」と即座に呼応した男がいた。どうなるか全く先は見えなかった。がしかし、とにかく「やろう。やろう」と賛同者が瞬く間に増殖。こうして意気投合した人達が2003年の夏「大江戸打ち水大作戦」と称して、東京都内の数箇所で「打ち水」を断行した。「打ち水」が、都心のヒートアイランド現象に、どこまで歯止めがかけられるか、世の注目が集まった。気象関係者、大学の研究者も観測機材を持ち出しヘリコプターまで飛ばした。結果は、推定参加者約34万人、気温は、約1度下がった。目標は、100万人で約2度下げる予定だった。目標値はクリアできなかった。それでもマスコミの取材等が多数あり、この壮大なイベントが多くの人の目にとまった。ちょっとした工夫も「みんなでやれば、すごいんだ」という意識を喚起したてんで、大成功だったといえる。翌年の2004年には、さらにスケールアップし、全国主要都市に「打ち水」の輪が広がった。「水道の水は、ご法度!!」というメッセージ。雨水、風呂の残り湯などを使って欲しいという呼びかけは、共感を呼び全国でなんと推定参加人口が約300万人~800万人に膨れ上がった。そして気温は、東京都墨田区東向島では1.8度下がった。このユニークなイベントに対して日本イベント産業振興協会は、第1回日本イベント大賞の地域イベント部門賞を贈った。

 環境イベントって何だろう? と考えた時、「打ち水大作戦」ほどわかりやすいものは珍しい。江戸時代から続く真夏の生活習慣、何も難しいことはない。普段捨ててしまっている水をとっておいて道や庭や広場に一斉に撒く。ただそれだけのこと。水のリサイクル。それが地球の温暖化や都市のヒートアイランド現象を阻止する可能性を持つ。グローカルというキーワードがこのイベントにはよく似合う。足元に撒いた水、極めてローカルな行為が、熱せられた大気を冷やし、グローバルな世界に繋がっていく。ヒートアイランド現象に悩む全世界に「UCHIMIZU」が、拡大し日本発の世界語として通用する日が来るかもしれない。

環境イベントは、これまでにも環境技術展や環境ビジネス展あるいは環境をテーマとしたセミナー、シンポジウム等々、数限りなくある。その多くは、産業側からのアプローチである。しかし、生活者側、暮らしの側、ライフスタイルの側からの環境イベントと呼べるものがかなり浸透しはじめている。肩のこらない楽しみながら環境を考えるイベント。

例えば、今や若者に圧倒的な支持を受けている日本の野外音楽フェスティバルの草分け、フジロックフェステイバル。ロックと環境、一見無縁にみえるが、実は、そこには大きな接点があった。年に一度、真夏の苗場に三日間で延べ10万人もの人が訪れる。10万人といえばちょっとした町だ。「市」のスケールだ。大自然の中で音楽を快適に楽しむにはさまざまなルールが必要となる。周辺の地域住民に迷惑をかけないこと、自然を傷つけないこと、ゴミを持ち帰ること等々。これらがクリアされないことにはこのフェスタは、継続できない。それが既に回を重ね昨年で8回目を無事終了することができた。「自己責任」、自分でできることは自分でやる、人まかせにしない、このフジロックにテントをもって参加した多くの人々は、そのことを学んで帰る。環境保全への対策として多くのボランティアと連携したゴミ対策や、NGOの環境活動を紹介するNGOビレッジの設置、35万食に及ぶエコ対策をほどこした紙食器の導入、さらには昨年から国際環境団体フューチャーフォレストに参加。フジロックの会期中に排出されるCO2を換算、412トン分を吸収できる樹木562本を購入。世界各地で植林するわが国初のカーボンニュートラルイベントへの参加となった。大小複数のステージを点在させ、世界中から訪れた大物アーティストから無名のミュージシャンに至るまで自分の好みに合わせて各自が思い思いに楽しむことができるロックフェスティバル。それを可能にするためには「人や自然に迷惑をかけないこと」という約束ごと。それを守ること。自然と音楽の共生という理念に賛同してくれるスポンサーとしかタイアップしないという主催者の強い意思。フジロックは、決して大上段に「環境イベント」であることをうたっているわけではない。快適な音楽シーンを野外で創造していこうとする過程の中で、クリアしていかなくてはならない事態が次々と発生し、知恵を絞った結果として様々な可能性を秘めた環境イベントになっていったのである。

 私達は、環境問題を解決していこうとすると、どうしても身構えてしまう。しかし、環境イベントの可能性を考える上で、「打ち水大作戦」と「フジロック」を紹介したが、この二つの例は、どちらも非常に身近なところから発想し、大きな波及効果を得ている。快適な環境への追求が、周りの人達の賛同を得てイベントになる。しばしばイベントの定義として「イベントは、目的を達成するための手段である」という言い方をする。自分を取り巻く環境を快適にしていきたい、という思いは今に始まったことではない。しかし、現代社会は、快適な環境を実現するためには個人の力だけではどうしようもないことが多い。多くの人々の協力を必要とする。そのためには人々に「共感」してもらう手段、方法論が重要となる。「イベント」が環境問題を解決する手段として大勢の人々に直接訴えかけることのできるメディアとして、注目される所以である。
 ちなみに昨年、博報堂が実施した生活者の環境意識調査によれば、最も関心が高い環境問題は「地球温暖化」で、約8割の人が関心を持っていた。第二位が「ゴミの増大」で6割強の人が関心を持っていた。実践している環境行動としては「ゴミの分別」をしている人が9割に達している。
最後に、地球温暖化への取り組みとしてインターネットを使い、一種の環境イベントともいえる“ecotonoha”、エコトノハに触れたい。NECが主催したWebサイトに、世界中の人々が毎日、簡単なメッセージを一日一件だけ入力することができる。メッセージは、枝から芽を出したように一枚の木の葉のようになる。世界中から発信された言葉の数だけ緑豊かな木となる。まるで欅(ケヤキ)が次々枝分かれしながら一本の木に成長していくように見える。参加メッセージが100件、つまり100枚の葉を超えるごとに、NECが実施している環境活動の一環である「植林事業」の植樹数が増えるという仕組み。2004年の6月1日から12月27日までに寄せられたメッセージは、70,869件。それを受け、2005年にNECがオーストラリアのカンガルー島で実施する植林活動に708本の苗木が追加されることとなった。エコロジーと言の葉を組み合わせた造語、「エコトノハ」は、第51回カンヌ国際広告コンクールのインターネット部門でグランプリを受賞した。このネット上で展開された試みは、まさに世界中の誰もが参加できる地球規模の「環境イベント」として、多くの可能性を示唆するものである。
以上、三つの事例を紹介しながら環境イベントの可能性を考察してきたが、今後も人類の知恵が枯渇しない限り、まだまだ新たな「楽しい環境イベント」が次々生まれていくことを期待したい。