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2005年新年にあたって
2005.0118
宮木宗治
イベント産業再考論
仮説として「イベント産業は、成立しなかった」と置いたらどうなるかを考えてみた。
産業としては、未だに茫漠としており、その輪郭はあいまいなままである。産業と呼ぶにはあまりにも小規模、脆弱にみえる。むしろ、産業化する以前の「家業」の域を脱し切れていないのではないか、とも思える。
されど、日経BP社が毎年出版しているイベント事典には、イベントに関係する企業が数多く記載されている。例えば、主に展示会や見本市等のイベント会場として用いられる全国の大型会場(1スペース2000㎡以上の広さを持ち、固定座席でないもの)は、142施設、中小会場は、340施設リストアップされている。ほぼ500施設とみていい。
また、コンサートや演劇系のイベント会場として用いられる劇場やホールの場合、大型劇場・ホール(2000席以上の固定席を持つもの)は、36施設、中小劇場・ホールは、653施設リストアップされている。約700施設といったところか。
展示系施設とホール系施設をトータルするとおよそ1200施設が全国にある。これに加えて近年イベント会場としてよく使用される宴会場を持つホテルとして938施設リストアップされている。つまり、全国のイベント会場は、ざっとみて2000件を優に超えている。さらに道路や通路に面していて、貸し出し可能な企業や団体が有するイベント広場は、全国で268箇所リストアップされている。
このようにイベントが行われる「場」や「器」は、主な施設だけでも大変な数である。この施設の中身を埋め、単なる空き箱にしないビジネス、それがイベント産業ともいえる。では、その施設の管理・運営に関わる団体としてどんなところがあるのか、というと、まずはコンベンションビューローやコンベンション関連団体があり、これが69団体リストアップされている。コンベンションビューローやコンベンション協会、観光コンベンションビューロー、観光コンベンション協会と、名前は様々だが職員数もまた、一人二人のところから90人近いところまで様々だ。
また実際のイベントの企画・実施・運営に関わるイベント関連企業一覧には、539社リストアップされている。業種の内訳として8業種あり、以下のとおりである。一社で、下記の複数にまたがる場合もある。
広告 → 広告・PR
企画 → 企画・SP(企画・制作・運営)
ディスプレイ → 企画・政策・施工・資材
人材 → 人材派遣・紹介
サービス → 関連サービス
機器 → 機器・機材・設備・施工
AV → 映像・音響・照明(制作、機材、情報配信)
主催 → 主催
この企業リストの中には、売上げ規模で電通のような1兆4025億円の大手広告会社から1億円に満たないようなイベント会社まである。いずれにせよイベントが成立するまでには、多種多様な業種、業態が関わることは確かである。それが垂直統合ではなく水平統合されるところに特色がある。イベント会場を一定の期間埋めるためには、いくつものパーツの組み合わせが必要である。アセンブリー産業ともいえる。自動車産業やIT産業も、基本的にはアセンブリーである。違いは、何か。最大の違いは、イベントの場合は、常に一品生産であり、同じものを大量生産できないこと。イベントという商品に携わる多くのパートナーが、多くの場合、絶えずメンバーチェンジすること。形として残らないこと。再生産できないことで産業としての基盤が常に不安定であること。といったことがあげられる。
時間消費型の産業に、テーマパーク等のエンターテイメント産業やリゾート産業があるが、これらは装置系の産業として常設が基本である。一方、イベントは、仮設が基本である。そのことも不安定要素でありイベントの専業企業として大企業が生まれない要因となっている。大手広告代理店でも純粋にイベントだけの売上げで1000億円を超える企業はほとんどない。イベント専業企業で100億円を超える企業もほとんどない。いわゆるイベントで飯を食っていると言える企業の大半は、中小零細企業といっても過言ではない。
仮説として「イベント産業は成立しなかった」と置いて、その検証を進めているが実は、二つの課題をとりあげなくてはならない。一つは、そもそも「産業とは何か」「産業の定義」を確認しておく必要がある。もう一つは、イベント関連企業の中には、ゼネコンや保険会社、あるいは家電メーカー、車両メーカーを入れなくていいのか、ということである。イベント産業振興協会の会員各社の中に、かつては建設業界や保険業界、家電業界、電力業界が入っていた。イベント産業を支える一員としての認識があったからである。実際、大規模イベントを実施する上で、会場整備や実施・運営には、これらの企業はなくてはならない構成要員ではあった。ここ数年大規模イベントがなくなり会場整備も終了した段階で、彼らの役割は終了したとして脱会していった。
イベント産業の構成要員からインフラ整備に伴う企業が脱落していく。それが現実である。
産業とは何か
では「産業とは何か」を考察してみよう。総務省統計局は、日本の産業を日本標準産業分類一般原則の中で次のように定義している。
第1項 産業の定義「この産業分類にいう産業とは,事業所において社会的な分業として行われる財貨及びサービスの生産又は提供に係るすべての経済活動をいう。これには,営利的・非営利的活動を問わず,農業,建設業,製造業,卸売業,小売業,金融業,医療,福祉,教育,宗教,公務などが含まれる。
なお,家庭内においてその構成員が家族を対象として行う生産・サービス活動は,ここでいう産業には含めない。」
ということは、イベントを生業としている経済活動も、産業であり、どこかに分類されるはずである。
この産業分類をみると、大分類、中分類、小分類および細分類の四段階に分かれており、大分類19、中分類97、小分類420、細分類1,269となっている。イベントに関わる業務は、この中のどこに含まれるのだろうか。結論から言うと、「イベント業」もしくは「イベント請負業」「イベントプロデュース業」といった分類項目は、どこにもない。イベントという言葉自体が産業分類のどこにも無いのである。そこで、近いものを探してみる。大分類Qに「サービス業(他に分類されないもの)」という項目がある。
その中の中分類80に「専門サービス業(他に分類されないもの)」という項目がある。ここの小分類にイベントプロデュース業務に近いものがある。小分類807「著述・芸術家業」の細分類8072「芸術家業」。解説として「個人で美術・音楽・演劇などの芸術作品の創作、演出などの専門的なサービスを行う事業所をいう」、例えばということで「映画監督業、演出家業」等が記載されている。イベントプロデューサーは、しばしば映画監督との類似点を指摘されることがある。また、演出家は、イベントディレクターを務めることがある。
また、小分類809「その他の専門サービス業」の細分類8093に「経営コンサルタント業」がある。解説に「マネジメントに関する診断、指導、教育訓練、調査研究などを行う事業所をいう」とある。イベント業務の重要な要件としてイベントマネジメントがある。細分類の例示として「経営管理事務所」「経営管理診断事務所」「経営管理指導研究事務所」「経営管理相談所」があげられているが、大規模イベントの総合プロデュースは、まさにプロジェクトチームの経営管理の診断・指導・相談に携わっているともいえる。その他、細分類8099に「他に分類されない専門サービス業」という分類項目があり、解説として「他に分類されない専門サービスを提供する事業所をいう」とある。例示として、「司会業」「コピーライター業」等がある。イベント業務の実施段階で、両者とも関係してくることが多い業務である。
次に中分類83に「その他の生活関連サービス業」がある。解説として「主として個人を対象としてサービスを提供する他に分類されない事業所が分類される」とある。
小分類の831に「旅行業」、小分類の839の細分類8399「他に分類されないその他の生活関連サービス業」がある。この中に「チケット類売買業」等が例示されている。旅行業の方は、近年イベント参加ツアーを企画商品化することも多く、イベントとの関わりを強化し始めている。またチケット類販売業は、花火大会の特別シート席やスポーツイベント等のライブイベントのチケット販売と大いに力を入れている。
三番目に中分類84をみると「娯楽業」がある。興行をイベントに含めるか、含めないかで議論の分かれるところではあるが、この解説として「映画、演劇その他の興行及び娯楽を提供し、又は休養を与える事業所並びにこれに附帯するサービスを行う事業所が分類される」とある。小分類の842は「興行場、興行団」となっており細分類にはイベントのコンテンツを提供するビジネスが多数含まれている。細分類8421の「劇場」の解説として「演劇を提供する事業所及びその付属の劇団、歌劇団、オーケストラ並びに劇場を持つ興行団をいう」とある。
また細分類8422の「興行場」の解説には「落語、講談、浪曲、見世物、軽業、野球、相撲などの娯楽を提供する事務所及び興行場を持つ興行団をいう」とある。
細分類8423には、「劇団」があり、「演劇興行請負業」や「芸能プロダクション」「コンサート・ツアー業」等が例示されている。細分類8424には、「楽団、舞踊団」があり、解説には「契約により音楽、舞踊などの出演又は自ら公演する事業所をいう」とある。例示として独立系のバンドやフリーの歌謡歌手業等があげられている。
細分類8425の「演芸・スポーツ等興行団」には、「契約により出演又は自ら公演し、落語、浪曲、見世物、野球、相撲、ボクシング、レスリングなどの娯楽を提供する他に分類されない事業所をいう」とあり、「プロ野球団」「プロサッカー団」「プロレス協会」等が例示されている。
中分類89には「広告業」があり、小分類891に「広告代理業」、899に「その他の広告業」がある。残念ながら細分類の中や、例示の中にも「イベント業」という言葉は見当たらない。細分類8999に「他に分類されない広告業」の解説には「広告に配る引札の配布、郵便広告サービス、サンプルの配布などのような他に分類されない広告サービスを行う事業所をいう」とあり、例示として、近年馴染みのなくなった言葉が並んでいる。「広め屋」「ちんどん屋」「引札配布業」「郵便広告業」「サンプル配布業」といった具合だ。いわゆる広告会社のセールスプロモーション(SP)に属するものが、ここに分類されているようだ。広告会社で通常実施されているセールスイベント、プロモーションイベントもまた、産業分類上、この広告業(中分類)の中の「その他の広告業」(小分類)、そのまた「他に分類されない広告業」(細分類)に入るのだろうか。
中分類90に「その他の事業サービス業」がある。解説として「企業経営を対象としてサービスを行う他に分類されない事業が分類される」とある。イベントと関係がありそうな小分類として906「警備業」、さらに909「他に分類されない事業サービス業」がある。他に分類されない事業サービス業の細分類9091に「ディスプレイ業」があり、解説に「主として販売促進、教育啓もう、情報伝達の機能を発揮させることを目的として、店舗、博覧会会場、催事などの展示等に係る調査、企画、設計、展示、構成、製作、施工監理を一貫して請負い、これら施設の内装、外装、展示装置、機械設備(音響、映像等)などを総合的に構成演出する業務を行う事業所をいう」とある。展示系イベント会社は、まさにここに入るようだ。大分類Qのサービス業(他に分類されないもの)の中の中分類90の「その他の事業サービス業」の中の小分類909の「他に分類されない事業サービス業」と、《他に分類されない》や《その他》のオンパレードの末に、ようやくイベントに関係があるディスプレイ業が出てくる。ここまでブレイクダウンしても《イベント》という言葉は出てこない。
小分類909の「他に分類されない事業サービス業」の細分類9099に究極の分類とも言える「他に分類されないその他の事業サービス業」というのがあり、例示の中に「パーティ請負業」というのがある。パーティは一種のイベントでもある。パーティをイベントに置き換えてみたくなる。「イベント請負業」というのが、ビジネスとしてある以上、広義に捉えるとこの「パーティ請負業」というのもかなり近いのではないか。
ここまで延々と産業分類を追っかけてきたが、冒頭に示したようにイベント業は、産業分類上、存在しない。独立した経済活動、完結した一つの経済活動として認知されていないのである。この事実をどう受け止めるのか、当協会のドメインを考察する上で大きな課題である。
産業分類にイベント業がないことによる影響
次に、イベント業、イベント請負業といった経済活動が産業分類にないことの影響を考えてみたい。まず第一に、業界団体としてのまとまりを得にくい。第二に産業として把握する上での統合的な統計数値がとれない。第三に、イベントに関わる様々な法律、条令、規制、通達等の情報がイベント関係者に伝わりにくい。第四に、規制緩和への要請や法律改正への要望等が、国や各自治体に対して挙げにくい。例えば、警備業法の改正、個人情報保護法の施行、地方自治法の改正による指定管理者制度の導入等は、イベント関係者にとっては、直接ビジネスに関わることである。警備業法等は、イベントに精通している人が法案策定に事前に関与していれば、もっと違ったものになっていたに違いないと惜しむ声があがっている。業界、団体としての要請や要望を、吸い上げる機能が弱いといえる。
もっとも日本イベント産業振興協会は、業界団体だったのではないのか?という見方をする人も多い。会員構成を見たことが無い人にとっては、当然そのような認識をもつのもやむを得ない名称である。日本イベント産業振興協会という長いネーミングをどこで切るかで、また全然意味が異なってくる。「イベント産業」の「振興協会」なのか、「イベント」による「産業振興」を目的とした協会なのかで意味が全く変わってくる。少なくとも協会の会員構成をみると後者である。会員には、トヨタ自動車やNEC、SONY等のメーカーが主要メンバーの一角を占めている。トヨタは自動車産業であり、NEC、SONYは、家電産業である。彼らの業務内容がイベント産業であると思っている人は、世界中を探してもいないであろう。
大分類Qのサービス業(他に分類されないもの)の中分類91に「政治・経済・文化団体」というのがある。小分類911に「経済団体」があり、その中の細分類9111に「実業団体」、9112に「同業団体」、小分類912に「労働団体」、小分類913に「学術・文化団体」、小分類914に「政治団体」、小分類919に「他に分類されない非営利的団体」がある。これらの例示を詳細にみても日本イベント産業振興協会はどこにもあてはまらない。
例えば、「同業団体」の解説をみても「同業者によって組織された団体で、当該業界の親睦、地位・技術の向上、発展などに寄与するための活動を行う事業所をいう」とあり、日本電気工業会や日本百貨店協会、あるいは全国銀行協会連合会、日本証券業協会等々が例示されており、日本イベント産業振興協会が、この同業者団体にふくまれるとはとてもいえない。会員構成が同業とはいえない企業の集まりだからである。
「実業団体」というのは、商工会議所や商工会、あるいは経済団体連合会等のことを指しているので、ここにもあてはまらない。
ならば「他に分類されない非営利的団体」なのかというと、そこに例示されているものは日本体育協会、将棋連盟、日本野鳥の会等である。
以上のように外部からイベントの同業者団体と見られている「日本イベント産業振興協会」もまた、産業分類では特定できない団体なのである。この協会そのものが、異業種の寄り合い所帯という極めてユニークな団体であることは明らかである。同時に団体を維持していき、組織として機能させていくためには明確な目的、明確な目標が無い限り、一瞬に崩壊する危険を孕んでいるともいえる。現会員に対しては、何のために会費支払っているのか、新規会員に対してはなぜ入会を求めるのか、そのことを絶えず明確に示していかない限り存続は難しい。
二つの方向
当協会を継続、維持させていくには二つの方向がある。第一は、イベント産業の振興ではなく、イベントによる産業振興であることを、今以上に鮮明に打ち出し、現状の会員と同じようにイベントに多少とも関わる企業、自治体、諸団体への勧誘を強化すること。そのためにはまぎらわしい「産業」という言葉を無くし「日本イベント振興協会」とすることも一考である。
第二の方向は、同業者団体に徹すること。イベントを生業としていると自認できる企業や個人に会員構成を変更していくこと。従って、現状の会員の中でイベント業とは無関係だと感じている大企業の撤退はやむなしとし、広告代理店やその多くが中小零細企業であるイベント関連企業を主体とする。名称も「日本イベント業協会」とする方向である。
二つの方向のどちらを選択するのか。そこが定まらない限り、この協会はダッチロールを続け、その果てに墜落、自然消滅という道を辿ることになろう。
では、この二つの選択肢のうち軍配をどちらにあげればよいのか。前者は、間口が広く、後者は間口が狭い。イベントという経済活動が産業分類にのらないこと、イベントの本質的な性格上、関係者が極めて多岐にわたること、団体として維持していくための財政基盤を安定化する必要があること、以上のような観点からすると前者の「日本イベント振興協会」に軍配をあげ、イベントそのものの活性化をめざすことを目的とした団体にシフトしていくことが望ましいのではないか、それが私の考えである。
新体制に移行するための具体的な方法論
では、実際に「イベント産業の振興」ではなく、「イベントによる産業振興」という視点で新たな体制を構築するためにはどうすればよいのか。日本イベント振興協会としての活動の柱は何か。答えは既に出ていると思う。
第一の柱は、表彰制度である。全国の優れたイベント活動を評価し、表彰することでイベントの持つ社会的役割や機能を世間にアピールすることである。それこそが、当協会の存在意義といっても過言ではない。平成16年度の15周年記念事業としてスタートさせた「イベント大賞」を一回で終わらせるわけにはいかないのである。この制度を継続させることで当協会が「イベントの総本山」としてのイメージを形成させることができるのである。継続させるにはどうすればよいのか。財源の確保をどうすればよいのか。理事会社による特別会費が見込めない以上、会員数の拡大に全力を挙げるしかない。
従って、第二の柱は、会員拡大である。会員数拡大のターゲットとなるのは、第一にイベント会場の管理・運営会社や団体へのアプローチである。冒頭で示したように全国に展示系施設は、約500、ホール系施設は、約700施設、計1,200~1,300施設あり、そこへの入会要請である。
これまで行政しか管理・運営ができなかった公共施設も指定管理者制度の導入で民間にも管理・運営の道が開かれた。これを絶好の機会として生かすべきである。
第二は、宴会場を持つホテル約900施設。ここでは会議系、パーティー系のイベントが絶えず行われている。イベントの誘致に対して専門スタッフを置いているところもある。当協会に入会することでのメリットは十分考えられる。
第三に重複はあるが、コンベンションビューロー、観光コンベンション協会等の諸団体が約70箇所である。イベント関連の専門組織としての自負を持つ一方、傘下のイベント会場の稼働率の維持、低下に頭を悩ましている。当協会の会員となることで成功事例等の紹介セミナーに参加可能となるなど、様々な可能性が開ける。
第四は、イベント関連会社約540社といった直接イベントに関係するところへの入会案内を徹底して行うことである。このグループは企業規模としてピンからキリまであるが、現状の当協会に入会している企業は、1割にも満たない。財政基盤を支えるというてんでは、多くはあてにならないとの見方もあるが、入会金や会費等の条件次第では拡大の余地があるはずである。
第五のターゲットは、地方自治体である。全国の市町村2,500~2,600箇所。現在、大半の市町村がホームページを持ち、そこにイベント案内が必ずといっていいほど掲載されている。また観光政策に熱心な自治体は、イベントや祭りの動員数を拡大することで地域振興を推進していこうとしている。このような自治体もまた潜在的な会員であり入会案内をするうえで有力なターゲットである。
国立大学や国立博物館や国立美術館等が、独立法人化を求められる時代である。社団法人も、独立採算制を求められる以上、マーケティング戦略が必要である。イベントの促進に力点を置いた新体制でのぞむ方針が明確に打ち出されれば、会員拡大のための戦略、戦術として少なくとも狙うべきターゲットをはっきりとさせる必要があるのである。
第六のターゲットは、大学、専門学校である。イベント検定の認定校として現在10校前後あるが、イベント教育をカリキュラムの一部として取り組むことを検討している大学も近年増えつつあり、拡大の余地は十分ある。
新体制の第三の柱は、人材育成である。社会的に意義のあるイベントを実施するには、すばらしい人材がいなければ成り立たない。日本イベント大賞の創設の趣旨としてもイベントを企画・立案・実施した関係者やチームに焦点をあて、イベント関係者のレベルアップ、ステータスアップを最終的にめざしている。エントリー資格は、当協会の会員社や当協会が認定を行っている「イベント検定合格者」や「業務管理者資格取得者」だけではない。全国レベルで幅広く募集を行った。その結果、全国の自治体関係者やNPO関係者、学生等、実に多様な層からの応募があった。全国でイベントに対する関心が幅広い層にわたってあることが顕在化したものといえる。
今、当協会で「イベント検定」と「イベント業務管理者」の二つの資格制度を設定し、毎年、試験を行っているが、受験者と現状の会員社との間にズレがおきはじめている。会員社の社員の受験者数は、全体の( )%にすぎない。当協会を維持していく上で財源の主要部分を占めるのは、年会費以外では、会員社以外の方々から受け取る受験料、資格登録料である。このような会員社以外の方々を、どうとりこむかも課題である。各自が所属している会社を会員化する可能性や個人会員の可能性も検討の余地が、新体制のもとではあるのではないか。
また当協会は、イベント関係者に対して日本イベント大賞という大きな目標を掲げることで、大賞をめざす人材育成というシンボリックなイメージを明確にすることができる。当協会が「イベント産業」という呪縛から解放されることでイベントを専業とする人々だけではなく、なんらかの形でイベントに関わっている多くの人達に対しても、イベント教育の重要性を訴えることができる。そのための多彩なカリキュラムやセミナーを強化し、トップクラスの人材育成からイベントのイロハを学べる初級クラスまで幅広いメニューを用意することの意味が生まれる。
現在、当協会では専門学校10数校、大学数校でのイベント教育、及びセミナーを展開しているが、モノの豊かさよりも心の豊かさをめざすようになっている社会においては今後ますますイベントの担い手教育の充実が求められてくるのは間違いない。
第四の柱は、イベントの調査研究である。日本イベント大賞を新たな「旗印」にした場合、調査研究の主目的も自ずと変わる。イベント産業に軸足を置いた時には、イベントの市場規模を把握することが大変重要であった。しかし、前述したように国の産業分類にイベント業がないため、市場規模の算定は極めて難しく、毎年、推計に推計を重ねるということを繰り返してきた。そのことで、実態から乖離してしまう事態を招き、推計値の信頼性が乏しいという指摘がなされた。またデータソースそのものが多岐にわたること、当協会は、第三者がまとめた後、再編集し推計するという手続きを踏む。そのためリアルタイムで発表ができず、最新データが2年遅れという状況であった。いずれにせよ国が主導的な立場で「イベント産業」を育成することを錦の御旗にした時に、イベント市場の把握は欠かせない調査であったかもしれない。しかし、イベントによる産業振興に軸足を移すと、全く調べるべき内容が変わる。どんなイベントが産業振興に結びついていくのか、というテーマが最重要課題となる。
日本イベント大賞の審査基準もまた、産業振興に結びついたイベントか否かが問われることになる。そこで「イベント振興協会」という新体制でのぞんだ場合、調査研究の主役は、市場規模把握ではなく、イベントによる波及効果、イベントの効果測定にとって変わるべきである。その前提として、日本全国のどこでどんな優れたイベントが行われているかを正確に把握する「仕組み・システム」を整備・構築することが何よりも必要である。幸い10年前と異なり、今はネット社会である。インターネットによって津々浦々まで、情報のやりとりがデスク上で可能である。今、市町村でホームページを持っていない自治体の方が少ないくらいである。大半の自治体が、ホームページで地域のイベント情報を発信している。ということは担当者がいるということでもある。ネットを通じたイベント情報収集システムを当協会が構築することで、イベントのお知らせ情報の受発信にとどまらず、分析に資するデータベースを蓄積することができる。イベントの相対評価も可能となり、ネット時代にふさわしい情報提供をしていくことができる。
イベント市場規模推計は脇役とし、カテゴリー別の調査はオリジナルデータを基におこない、既存資料は補強材料として参考にするに留める。
第五の柱は、ジャパンエキスポに変わる新たなイベント支援制度「イベント・オリエンテッド・エンタープライズ(EOE)支援制度(仮称)」である。日本イベント産業振興協会では、ジャパンエキスポという地方博覧会の審査・認定機関として平成4年から13年にわたって計12件に関わってきた。ジャパンエキスポは、地方経済の活性化に貢献してきたことは間違いないが、ジャパンエキスポに限らず大規模イベントは、常に会期終了後、開催地域に何を残してきたか、という疑問が繰り返し投げかけられている。このような疑問に対して、以下の三点をクリアしなくてはならない。第一に、なぜ開催にあたって整備された公共施設や道路が、イベント終了後、十分に活用されないのか。第二に、なぜ地域に新たな産業が芽生えてこなかったのか。第三に、雇用機会が増えたのは開催前、会期中のみで、なぜ終了後は、開催前の状況に戻ってしまったのか。
理由は多々あるかと思うが、イベントが「一過性」でしかなかったのでは、という思いが多くの人々に共通してあり、「継続的」な経済振興に繋がってこなかった不満が根底にあるようだ。そこで、イベントによる地域振興支援事業として以下の内容を検討する。
内容 :①継続的な事業のインキュベーションとなるイベントの開発支援
②イベントによる地域振興支援ができるイベントファシリテーターの養成
③当協会認定のファシリテーターの地域への派遣
④イベントによる新事業立ち上げへの指導
大規模なイベントの開催により社会資本が充実したことは評価できるが、その後に「継続的な新事業」が芽生えなかったことへの反省は、全国各地のイベントをサポートしていく姿勢を打ち出していこうとする当協会としては真摯に受け止める必要がある。
そこで、「イベントによる起業化への支援」を目的とした制度設計を行い、全国各地の地域振興に貢献していくことをめざす。目的は、あくまで新たな継続事業を芽生えさせることであり、そのための手段としてイベントを活用する。従って、新たな継続事業が「観光促進なのか」「物産の販売促進なのか」「産学連携事業の促進なのか」等々、ハードよりもソフト優先のゴール目標を明確にしておくことが重要になってくる。以下は、新たな支援新制度への糸口をつけるための叩き台である。今後の議論を活発化させるための素材として提起する。
STEP 1
経営的な視点をもった中小企業診断士等に対してイベントのスキルを身につけて頂く。そのための講習会を実施する。一定のカリキュラムを受講した方に対して「イベント・ファシリテーター」という職能を当協会が認定する。
STEP 2
当協会は、認定をした「イベント・ファシリテーター」を、地域振興に日々頭を悩ましている自治体や商工会議所、商工会に派遣する。契約は、当協会が、契約主体となり派遣者の身元保証を行う。
STEP 3
例えば、契約期間は、半年、一年といった比較的中長期の長さとする。イベント・ファシリテーターには、契約期間内に現地に何度か足を運び、関係者との人脈を築いてもらう。そこではイベント・ファシリテーターは、地域住民、商工関係者等の地域振興への熱い思いを座談会等で抽出し、百出する議論を一定の方向にまとめあげる役割を担う。最終的にはイベントという手段によって様々な課題を解決していく道筋をつける。
STEP 4
会期、予算、内容等のイベントの枠組み、及びイベントの終了後の構想が決定した時点で、実行委員会から経済産業省に対して申請書類を提出し、審査を経たうえ経済産業省の後援イベントとする。受付、窓口、審査は実質的に当協会が担う。尚、後援するにあたってイベントの予算規模に応じて経済産業省よりシードマネーを出す。シードマネーは、イベントを立ち上げるための調査費用名目とする。
STEP 5
イベントの開催前、開催中、開催後の3ポイントの調査をイベント・ファシリテーターの指導の下で実施する。ファシリテーターは、イベント終了後のコンサルティング契約を当協会の承認を経た上で、イベント開催地域で独自に行うことができるようにする。イベント後のフォローアップをあらかじめプログラムに組み込むことが、この制度設計の味噌となる。
以上、「イベント産業再考論」ということで考察をしてきたが、整理すると今後日本イベント産業振興協会という組織を維持・継続させるためには、まず第一にイベント産業の育成なのか、イベントによる産業育成なのかを明確にすること。第二に、イベント業あるいはイベント請負業といったイベントに関わる直接的な経済活動は、総務省統計局の産業分類には一切無く、イベントの本質的な機能として分類不能であることを再確認すること。第三に、これを受けて当協会は、「イベント産業」の育成という概念規定を捨て、「イベントによる産業振興」という方向に舵を切るべきだということ。そのためには「産業」という一文字を消し、「日本イベント振興協会」と名称を変えるくらいの英断が必要であること。第四に、日本イベント大賞を継続させること。継続させることの意義は大きく、イベントをやった結果としての産業育成につながったか否かを判定する絶好の機会でもある。また「イベント振興の総本山」というイメージを社会的に認知させる上で最適だということ。第五に、イベント振興に軸足を移し、結果として産業振興につながることを期待する立場を鮮明にすることで、会員獲得の間口が拡大すること。第六に、間口拡大にともない入会促進のためのターゲット戦略を明らかにし、会員拡大目標を立て実行にうつすこと。第七に、人材育成は、イベント大賞や間口拡大と連動し、多種多様なカリキュラムやコースメニューを充実させること。第八に、調査研究は、イベント市場規模把握よりも、イベントの直接効果、波及効果に重点を置き、社会的貢献度の高いイベントは何かの研究を活発化させる。そのための基礎的なデータベースを収集・蓄積するためのシステムづくりに力をいれること。第九に、ジャパンエキスポに変わる新たなイベント支援制度を構築すること。そのコンセプトは、「イベントによる起業化」。新たな事業展開のインキュベーションとなり得るイベントを成立させるためのプログラムの作成。イベントファシリテーターの育成講座から人材派遣までの一連の支援制度を構築すること。
以上、9項目について私見、提案等を新年にあたって綴ってみた。独断と偏見に満ちているとの感想や意見、反論を期待したい。
以上