コラム イベントあれこれ
文化資源とイベント 第4回
2006
世界に向けて進化する「打ち水大作戦」
(2004日本イベント大賞応募  映像)
「庭は一隅の梧桐の繁みから次第に暮れて来て、ひょろ松檜葉などに滴る水珠は夕立の後かと見紛うばかりで、その濡色に夕月の光の薄く映ずるのは何とも云えぬすがすがしさを添えている。主人は庭を渡る微風に袂を吹かせながら、おのれの労働が為し出した快い結果を極めて満足しながら味わっている。」(幸田露伴「太郎坊」より)

●打ち水に蝉も雀も濡れよ


 庭を渡る微風に袂を吹かせながら満足げに涼を味わっているのは、「蝉も雀も濡れよとばかりに打水」をしたあと湯を浴びて戻った「主人」である。水を打つという「労働」の風情と清涼な満足感を、露伴の筆はこんなにも格調高く描いた。ちなみに「蝉も雀も濡れよ」という描写は芭蕉の門弟・其角の
  水打てや 蝉も雀も ぬるゝほど (「花摘」)
を下敷きにして、江戸の打水の気風を伝えている。

 「太郎坊」の上梓から70年を経て、「打水」という日本の文化資源が世界規模の拡がりを持つことになろうとは、さしもの露伴も夢想だにしなかったに違いない。
打ち水大作戦ホームページより
●世界に広がる「UCHIMIZU」
 
江戸時代の庶民の知恵であった「打水」が、都市のヒートアイランド現象に対してどのような効果をもつのか、みんなでいっせいに打ち水をしてその効果を検証しようという社会実験イベント「打ち水大作戦」は大きな共感に迎えられ、周知のように2004年「日本イベント大賞」で地域イベント部門賞に輝いた。

(左)公式キャラクター2℃ちゃん三姉妹・(中・右)「打ち水音頭」には「打ち水カンパニー」によるオリジナル振り付けも(打ち水大作戦ホームページおよび公式刊行物より)
 3年目の夏となった2005年、ムーブメントの輪は拡がり続けた。
 前年に秋葉原で実施した「打ち水っ娘大集合」に集まったアニメ・コスプレ愛好の若者との画期的な出会いから生まれた「2℃ちゃん」三姉妹は公式マスコットとしてビデオ化もされている。墨田区で開催された「雨水東京国際会議」会場で披露されたり、「打ち水音頭」と劇団「打ち水カンパニー」は「愛・地球博」にも出演、外気温の測定には「音波式ガス温度計測」すなわち「音頭」で「温度」を計るという画期的なシステムも登場してその波及力はとどまるところを知らない。04年のストックホルムに続いて05年はパリっ子たちにUCHIMIZUの世界が広がった。
(上2枚)ホテルで使った水も無駄にせずに貯めて600リットル確保 (上)L'Uchimizuのチラシ (左)パリっ子も興味津々
(左下)打ち水の世界に笑顔がひろかる
(下)水道水はご法度 をフランス語で書くと・・↓
(上)温度は一気に3℃さがった。
(右)パリの雀もきっとびっくり

●打ち水に パリ雀も濡れよ
 
 打ち水大作戦を推進してきた浅井重範氏によると、パリで意外に難航したのが水集めだった。自分で用意してきた市民もいたけれど、600リットルの二次水のほとんどはホテルの洗面器やポリバケツにたくわえたもの。それも掃除のメイドさんに間違って捨てられたりしたという。
 水に対する文化の違いも感じられた。事前に水の撒き方のデモをしたけれども、「3 trois,2 deux,1 un」で手桶の水を打つパリっ子の仕草はどこかしらぎこちなかった。最初は「大切な水をこんなふうに地面に撒いていいの?」という遠慮みたいなものが感じられたと浅井さん。だが、スタッフの説明と、現実に水を打った後の清々しい冷気(測定では3℃下がった)に、参加者の顔は満面の笑みに溢れた。「年寄りにもできるこんなに簡単で、エクセレントな楽しいやり方」には皆が納得したのである。

 現在はイベントとして話題になってはいるけれど、将来的には日本でも世界でも、この打ち水が生活習慣として定着していってほしいと浅井さんは考えている。
 UCHIMIZUは、世界の人々を笑顔で結びつける日本からの素敵な提案なのである。
(平成17年8月三輪祐児)

画像提供・打ち水大作戦ホームページ・浅井重範様
打ち水大作戦ホームページ http://www.uchimizu.jp/
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